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StableはTetherの次の成長エンジンとなり得るか? [Four Pillars Research]

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概要

  • Tetherは米国規制への対応として、独立した『規制準拠型ステーブルコイン』を米国市場でローンチする方針を検討し、従来のUSDTは新興市場向けに供給拡大していると述べています。
  • TetherはUSDT以外にも『Stable』やPlasmaといった独自エコシステム構築によるマルチチェーン拡大戦略を積極的に進め、USDT活用領域と収益モデル多様化を図っているとします。
  • Stableは『機関中心インフラ』構築、大手取引所との連携、実物資産決済領域拡大を通じてTetherの次世代成長エンジンとなる可能性が高く、投資家は市場動向に注目する必要があると述べています。

世界最大のステーブルコイン発行会社であるTether(テザー)は、特定の国の規制に縛られない「脱国家化」戦略によってグローバル市場で独自の地位を築いています。TetherのUSDTは米ドルと1:1でペッグされていますが、米国政府の規制や圧力から比較的自由に運用されています。実際、TetherのCEOであるPaolo Ardoino(パオロ・アルドイノ)は、米国政府が強力なステーブルコイン規制を推進したことを受け、「米国市場専用の独立したステーブルコインをローンチする方策」を検討していると明らかにしました。これは国際市場でのUSDT運用は現状維持しつつ、米国市場向けに規制準拠型ステーブルコインを新たに設計・発行するという戦略的選択です。

このような判断は、Tetherが特に米国外の新興市場を主要ターゲットと位置付けていることを明確に示しています。Paolo CEO自ら「USDTの主要ユーザーは新興市場に集中している」と述べ、トルコ、ベトナム、ブラジル、アルゼンチン、アフリカ諸国を具体的に挙げました。これらの国々は自国通貨が不安定であったりドル調達が困難な中、USDTを米ドルの実用的な代替手段として活用しており、PaoloはTetherが「金融包摂層のためのラストマイルドルとなる」と強調しています。こうしたグローバルな需要拡大により、USDTはBinanceやBybitのような国際取引所で取引通貨としての地位を確立し、ボリビアなど一部の国では小売店でもUSDTによる価格表示が一般化しています。

結果として、Tetherは米国の規制に左右されにくいドル代替資産を世界中に提供し、市場に安定的に根付いています。

写真= DeFiying gravity? An empirical analysis of cross-border Bitcoin, Ether and stablecoin flows
写真= DeFiying gravity? An empirical analysis of cross-border Bitcoin, Ether and stablecoin flows

1. Tetherの記録的成長と、次なる成長ドライバーは?

1.1 Tetherの記録的成長

世界的なUSDT需要の急増はTetherの収益につながっています。Tetherの発表した2025年第2四半期の決算報告によると、同四半期だけで130億ドル規模の新規USDTが発行され、四半期純利益は約49億ドルに達しました。この巨額の利益は、主に米国債投資リターンやビットコイン、金など多様な資産投資によるものです。

この構造を通じてTetherは発行したステーブルコインによって調達した資金を米国債など安全資産へ投資し、歴代最高レベルの営業利益を実現しています。国家と比較しても、韓国よりも多い18番目の債権保有主体であり、その結果Tetherは現在、世界で最も収益性の高い金融企業の一つとなっています。

市場シェアも圧倒的です。2025年現在、USDTの総発行残高は史上最高の約1,550億ドルで、2位のCircle(サークル)のUSDC(約600億ドル)を大きく引き離しています。USDTは中央集権型取引所(CEX)と分散型取引所(DEX)の双方で広く使われる基軸ステーブルコインとなり、市場シェアも60%を超える独占的な地位にあります。

写真=イミュータブル ジェイコブ
写真=イミュータブル ジェイコブ

1.2 Tetherの次なる成長エンジン

TetherはUSDT以外にも金をトークン化したTether Gold(テザーゴールド)、資産発行プラットフォームHadron(ヘッドロン)など「発行」に関する幅広い事業を展開し、成長可能性を広げています。しかし更なる成長には発行だけでなく「活用」側面からの戦略的拡張も不可欠です。そのためTetherはUSDT0によるマルチチェーン拡張戦略と、Stable、Plasmaなど独自のブロックチェーン基盤による独自エコシステムの構築戦略を同時に進めています。

まず、LayerZero(レイヤーゼロ)のOFT(Omnichain Fungible Token)標準を活用し、USDT0という名称で様々なチェーンへの拡大を図る戦略は、USDCとの直接的な競争になります。現在、USDCはすでにSolana(ソラナ)、Hyperliquid(ハイパーリキッド)など複数チェーンで先行しており、DeFi領域でもUSDTより遥かに高い活用度を見せています。実際、USDCは中央集権取引所で$3.7T、分散型取引所で$9.0Tという高い取引高を記録していますが、USDTは中央集権取引所では$7.2Tと圧倒的な優位を維持する一方、分散型取引所では$1.6Tに留まっています。これはUSDTが国際送金やCEX間の大規模移転で主に使われ、USDCはEthereum起点のDeFiプロトコルで担保やスワップ取引として選ばれる傾向が強いことを示しています。したがって、USDT0を通じたTetherの拡大戦略が今後市場構造をどう変えるか注目する価値があります。

またTetherのもう一つの戦略である独自エコシステム構築では、StableとPlasmaの役割が特に重要となります。これらの戦略は基本的にBase(ベース)、Arbitrum(アービトラム)、Solanaなど既存レイヤー2および主要チェーンと競合関係を形成するものの、最も直接的な競争相手は今やUSDTの主な送金チェーンであるTron(トロン)でしょう。現在、Tronは手数料収入の99%、トランザクションボリュームの98%をUSDT送金で稼いでおり、とくに中央集権型取引所がTRXを買い増し・ステーキングすることでコスト減が図れ、このモデルがTron経済の中心となっています。しかし、Justin Sun(ジャスティン・サン)という物議を醸す人物が主導するTron自体のチェーンリスクが指摘され続けているため、十分なインセンティブがあれば取引所や機関が他のプラットフォームに移行する可能性は常に開かれています。

この部分でStableが強みを発揮できます。Stableの法人パートナーと企業中心の安定したインフラにより、TetherのUSDTが活用される領域を大幅に広げるポテンシャルがあります。果たしてStableはTetherの次世代成長を促すカタリストとなれるのでしょうか?2段階のプロセスがこれを可能にすると見られます。

2. Stableの2段階戦略

2.1 第1段階:企業のオンボーディング

2.1.1 企業重視のインフラ

Stableのインフラは、はじめから機関投資家の需要や要望を最優先して設計されています。例えばブロックチェーンを利用する際の代表的な障壁であるガス代の問題について、USDTをそのままガス手数料として使えるようにすることで、ガストークンの別途購入や管理なしで簡単にブロックチェーン送金を実現できます。

さらに機関で大規模なトランザクションが頻繁に発生する場合には必然的に生じるネットワーク混雑も2つの機能で解消しています。(i) 企業が優先して利用できる専用ブロックスペースを用意し重要な取引を遅延なく遂行できるようにし、(ii) トランザクションアグリゲーター技術で複数トランザクションをまとめ処理し、速度と処理量を大幅に高めています。

最後に、センシティブな企業データを守るためのコンフィデンシャル送信機能の準備も進めています。こうした多様な技術と機能が統合されたStableのインフラは、一言で言えば企業フレンドリーなブロックチェーンエコシステムを志向し、企業がブロックチェーンを手軽かつ安全に導入活用できるよう支援することに注力しています。

2.1.2 企業とのコネクション

写真=Stable
写真=Stable

Stableはこのようなインフラ構築のため、最近2,800万ドル相当のシード資金を調達しました。投資参加にはTetherのCEO PaolaがCTOを務めるBitfinex(ビットフィネックス)やUSDT0がリードし、世界的トレーディング企業Susquehanna International Group(サスケハナ・インターナショナル・グループ)、1.53兆ドルAUMのグローバル資産運用会社Franklin Templeton(フランクリン・テンプルトン)、さらにBybit(バイビット)、BTSEなど主要取引所も含まれます。またエンジェル投資家/アドバイザーとしてTether CEO Paola、Binance(バイナンス)役員Gabriel Abed(ガブリエル・アベッド)、Anchorage(アンカレッジ)CEO Nathan McCauley(ネイサン・マックオーリー)ら、トラディショナル金融と暗号業界を網羅した投資家ネットワークを有しています。

Stableの次なる課題は、いかに多くの実在企業や機関を効果的にオンボーディングできるかということです。幸いStable投資家ネットワークにはすでにグローバル運用会社や大手取引所が揃っており、初期ユーザープール確保の観点で有利な立ち位置となっています。

例えば、Tetherと親密な連携のあるBitfinexや、投資参加であるBybitのような大手取引所は、Stableの積極的サポートが期待されます。特にCEXは現状Tronを通じてUSDTを大口処理していますが、より効率的なStableへの移行を検討する十分な動機を有しています。Tronが主要取引所を巻き込むことで成功したように、Stableも同様に主要取引所と協力してユーザーにインセンティブを与えネットワーク効果を最大化できます。

またTetherは最近、実物資産・産業インフラへの投資を通じて地盤を固めています。2025年初頭には中南米の大手農業・エネルギー企業Adecoagro(アデコアグロ)の株式70%を買収し、南米における穀物・原油・エタノール等の実物資産決済にUSDTを活用すると発表しています。またアフリカのフィンテック企業Shiga Digital(シガデジタル)へ戦略投資を行いFX取引やコーポレートファイナンスにUSDT利用を拡大し、カナダ上場鉱山企業Elementi(エレメンティ)の株式31.9%を取得してコモディティ市場でも影響力を強めています。これらの企業がStableを戦略的に活用する可能性も高いです。

こうした大規模機関取引はリテール取引に比べて安定かつ収益性が高い領域でStableにとって非常に魅力的です。Stableは機関級大容量取引を安定的かつ高収益ビジネスとすることに集中し、これを通じてUSDTのドルフローが外部パブリックチェーンだけでなく「Tetherエコシステム」内でも循環することを目指しています。これはTetherがブロックチェーン領域で「チェーン主権」を確立するための有力な戦略といえるでしょう。

2.2 第2段階:オンボーディングされた企業の顧客を獲得

写真=Stable
写真=Stable

Stableは企業向けインフラを整えていますが、決して企業専用ブロックチェーンではありません。Stableは一般利用者にも使いやすい環境を提供しています。例えばUSDT送金時の手数料が無料で、ガス代としてUSDTをそのまま利用できるため別途ガストークンを購入する必要がありません。また直感的な独自ウォレットの提供により、ブロックチェーン経験の少ないユーザーでも簡単に利用できます。

取引所との協業で取引所の既存ユーザーを一気にStableエコシステムに誘導する戦略も非常に効果的です。その代表的成功例はCoinbaseのBaseチェーンです。Coinbaseは既存顧客が簡単な操作でBaseチェーンを利用できるよう積極的な施策を打ち出しました。例えばCoinbaseからBaseチェーンへのUSDC送金手数料を全面免除し、アプリからBase上のMorpho(モルフォ)といったレンディングプロトコルを簡単に利用できるようUXを整備し、ユーザーは複雑な手順なく親しみやすいUI環境の下で自然にBaseエコシステムを利用できました。さらに初期に一定額以上のUSDCを預ける/利用することで報酬を付与するプロモーションで初期ユーザー拡大に成功しました。こうした戦略がBaseチェーンの急成長の核となりました。

また、取引所だけでなく銀行やフィンテックとの戦略的パートナーシップも有力なオンボーディング策となります。例えばPayPal(ペイパル)のPYUSDは現状EthereumやSolanaなど6つのブロックチェーンで運用されていますが、仮にPayPalがStableと提携しPYUSDがガス代決済に使えるようになれば、PayPalはStable中心に効率的な決済インフラを基盤にできる大きなインセンティブとなるでしょう。これによりPayPalのデフォルトウォレットや決済インフラがStableブロックチェーンを基礎とした形で自然に統合されていきます。このような戦略協力はStableが企業のみならず一般ユーザーの日常決済にも広がるための重要な足がかりになるはずです。

3. StableはTetherの次の成長を牽引できるか?

写真=Stable
写真=Stable

Tetherのこれまでの成果と現在進行中の戦略を総合すると、StableはTetherの次世代成長を担うメインエンジンになり得ます。すでにTetherはUSDT発行を通じて莫大な利益をあげ初期成長に成功、今はTron依存度を下げつつ独自インフラ構築を通じ二次成長を模索中です。ステーブルコイン特化チェーンの差別化は難しいものの、Stableが企業向けインフラを作り法人顧客の安定需要を確保する戦略は鋭く、企業とその顧客を中心に「活用」面での収益源を広げる意思も明確です。

もちろん課題もあります。企業向けステーブルコイン特化チェーンの成功モデルは事実上なく、Tetherも規制リスクへの備えが常に必要です。米国など先進国で大型規制が発動されればTetherの市場地位が狭められる可能性がありますが、市場撤退や独自規制準拠型コイン発行等の戦略で脱国家化路線を堅持し対応していくものと考えられます。またCircleのUSDCなど競争ステーブルコインも挑戦してきますが、Tetherの圧倒的流動性やブランド信頼、自前エコシステムは追随困難な壁です。

Stableがうまく機能すれば、Tetherは発行から流通・取引・決済までステーブルコインのバリューチェーン全体を抑えられるようになります。これはTetherに新たな飛躍の土台となり、USDTのリーダーシップ強化と業界全体発展の触媒にもなり得ます。

以上をまとめると、StableがTetherの次世代成長を主導する可能性は非常に高く、Tetherがそれをどう具体的成果につなげるかに注目すべきです。

Four Pillarsはグローバルなブロックチェーン専門リサーチ企業であり、長年の実務経験を持つスペシャリストが結集し、世界中の顧客にリサーチサービスを提供しています。2023年の設立以来、100以上のプロトコルや企業と、ステーブルコイン・分散型金融・インフラ・トークノミクスなど多様なリサーチを実施し、業界全般の情報非対称の解消とブロックチェーンの実利用・成長支援をミッションとしています。

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