米国の裏庭で起きた逆転劇…カナダ・中国「メープル-人民元ディール」の衝撃[グローバルマネーXファイル]

ソース
Korea Economic Daily

概要

  • カナダと中国の「メープル-人民元ディール」により、中国製EVの関税引き下げと農産物関税引き下げが行われ、北米EV市場とカナダの輸出構造に重大な変化が予想されるとした。
  • 今回の協定で、テスラをはじめとする中国生産EVのカナダ迂回輸出の可能性が高まり、北米のサプライチェーンと米国の対中制裁体制が揺らぎかねないとの懸念が提起されたと伝えた。
  • 7月のUSMCA再交渉で原産地規則安全保障条項の強化可能性が高まり、韓国の自動車電池企業がカナダおよび米国市場戦略を全面的に修正せざるを得ない可能性があると分析したと伝えた。

最近、カナダと中国が手を組んだ、いわゆる「メープル-人民元ディール」が世界経済を揺さぶっている。米国の最重要同盟国でありG7(主要7カ国)加盟国でもあるカナダが、西側と対立する中国との協力を強化したためだ。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の存廃さえ脅かし、世界経済の流れを変え得る契機になり得るとの見方が出ている。

中国とカナダの首脳、2カ月ぶりに再会

22日、ロイター通信によると、習近平・中国国家主席とマーク・カーニー・カナダ首相は16日、北京で首脳会談を行った。昨年10月の慶州でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせた会談以来、約2カ月ぶりに再会した両国首脳は、長い冷却期間を経て「新たな戦略的パートナーシップ」を宣言し、各種貿易政策で合意した。

今回の合意は、徹底的に計算された「実利」と「生存」の産物だという分析だ。カナダ経済はここ数年、高金利と低成長、「米国第一主義」に基づく米国の強力な保護主義圧力の中で孤立してきたとの指摘がある。カナダ統計局によれば、2023年のカナダの対米輸出比率は全体の77.1%に達した。こうした歪んだ過度の依存は、米政権の性向次第で国家経済全体が揺さぶられる構造的リスクだった。

マーク・カーニー首相は会談直後、「やや分断され不確実な世界で、カナダはより強く、独立し、レジリエントな経済を構築しなければならない」と強調した。これは事実上、米国の影から脱し、「中堅国」として独自の戦略を遂行するという意味だとの分析だ。

中国の立場でも今回のディールは切実だったという解釈が出ている。内需低迷と不動産危機、西側の技術制裁で塞がれた経済の活路を開くため、米国市場への迂回路であり資源大国でもあるカナダを攻略したというわけだ。両国の利害が一致して実現した今回の協定は、EV、農業、金融、エネルギーを網羅する包括的で破格の内容を盛り込んでいるとの分析がある。

今回合意の骨子は、カナダが自動車市場の門戸を一部開き、その見返りに農産物の輸出ルートを確保することだ。単に関税を引き下げる水準を超え、双方が互いの需要を満たす精緻な利益共有モデルを設計したという解釈だ。

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最大の波及効果を持つのはEV市場の開放だ。カナダ政府は2024年、米国と歩調を合わせて中国製EVに課していた100%の懲罰的追加関税を、事実上撤廃する方針とした。合意案によれば、カナダは年間4万9000台の中国製EVに対し、6.1%の最恵国待遇(MFN)関税率を適用することにした。

カナダ政府は、この数量はカナダの年間新車市場(約180万台)の3%未満だとして重要性を小さく見せようとしている。しかし細部条項を読み解くと、市場破壊力はさらに大きい。協定は「2030年までに、このクオータの50%以上を車両価格3万5000カナダドル以下の低価格帯EVに割り当てる」と明記した。

笑うテスラ?

これは現在、北米市場で空白となっている「エントリー級」EV市場を中国メーカーにそのまま明け渡すことになるとの分析だ。BYDの「シーガル」のような超低価格モデルが6.1%という低い関税で流入すれば、価格競争力だけで市場を席巻し得るとの見方が出ている。カナダ政府は「庶民層に手頃な環境配慮車の選択肢を提供し、今後3年以内に中国との合弁投資を通じて雇用を創出する」と述べた。

中国はカナダ西部の農家が長年求めてきた課題を解決した。中国は来る3月1日から、カナダ産キャノーラ種子に対する合算関税を従来の約84%から15%水準へ引き下げることで合意した。年間約40億カナダドル(約3兆9000億ウォン)規模に達するキャノーラ輸出市場が改善するという意味だ。

2019年の孟晩舟(メン・ワンチョウ)問題以降、中国の報復で壊滅の危機に追い込まれていたカナダの農心をなだめるためのカーニー首相の勝負手だとの分析だ。このほか、ロブスターやエンドウ豆など約26億ドル規模の農水産物に対する追加関税も、今年末まで免除される。

現地の反応は分かれている。カナダの農業界と鉱業界は歓迎する立場だ。一方、自動車および部品業界は「サプライチェーン崩壊」を懸念する。業界はテスラに注目している。今回のEVクオータ緩和の最大の受益者が中国ブランドではなくテスラになり得るという分析も出ている。テスラは上海ギガファクトリーで生産したモデルYとモデル3を、このクオータを通じてカナダへ迂回輸出する可能性が高い。

実際、テスラは2023年に上海産モデルYをカナダへ試験輸出し、バンクーバー港ベースの対中自動車輸入を前年比460%も急増させた前例がある。中国国内市場での競争激化で収益性が悪化したテスラにとって、カナダ市場は在庫を捌いてマージンを確保できる魅力的な脱出口になり得る。ロイター通信など主要海外メディアは「今回の合意はテスラに中国生産分の輸出を再開する機会を与えるだろう」と分析した。

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一方、北米に基盤を置く自動車部品メーカーには非常事態となった。カナダに流入した中国製EVが北米統合サプライチェーンに乗って国境を行き来する場合、部品の原産地追跡が難しくなり得る。これは米国が構築してきた緻密な対中制裁網を無力化する「バックドア」になり得る。

両国は金融とエネルギー分野の協力も強化した。両国の中央銀行は、2000億人民元規模の通貨スワップ協定を5年延長した。中国人民銀行は「現地通貨の使用を拡大し、貿易・投資を促進する」と評価した。G7国であるカナダが、ドル覇権に挑む中国の「人民元国際化」戦略を後押ししたとの分析だ。今後、カナダ産エネルギー輸出の決済などで人民元比重が拡大する可能性もある。

「経済的多角化」vs「安保のオウンゴール」

今回のディールを巡って、「勇気ある経済独立宣言」という評価と「同盟を売り渡した安保のオウンゴール」という批判が交錯する。支持者は、物価高の時代に消費者厚生を高め、輸出市場を多角化して対米依存度を下げるべきだと主張する。

しかし米国と安全保障専門家の視線は冷徹だ。最大の懸念は「データ安全保障」だ。コネクテッドカー技術の発展に伴い、自動車は単なる移動手段を超え「走るデータセンター」となった。中国製EVに搭載されたソフトウェアやセンサーが、カナダの地理情報、ユーザーデータ、通信網情報を収集し、中国へ送信し得るとの懸念が出ている。

米国は昨年1月から、中国製ソフトウェアとハードウェアが搭載されたコネクテッド車の販売を禁じる強力な規制を施行中だ。カナダの今回の決定は、北米大陸のサイバー防衛線に穴を開ける行為と見なされ得る。ショーン・ダフィー米運輸長官は「カナダ市場に中国車を入れる決定は、結局痛いほど後悔する日が来るだろう」とし、「それらの車両は米国に1台たりとも入れない」と警告した。

今回のディールがもたらすマクロ経済的影響は大きく二つが挙げられる。まずUSMCA体制の危機だ。来る7月1日はUSMCA発効6周年に当たり、3カ国(米国・メキシコ・カナダ)が協定延長の是非を決める「共同レビュー」が予定されている。協定第34.7条によれば、3カ国のうち一つでも延長に反対すれば、協定は16年延長の代わりに毎年再検討を行う不安定な状態へ移行する。

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今回のレビューでは、原産地規則、新興技術、安全保障条項などで対中抑止措置を強化する議題が核心争点になる見通しだ。米国内の強硬派は、カナダの今回の独自行動を口実に協定破棄や再交渉を強く求める可能性がある。カナダ経済の生命線である対米貿易が揺らげば、中国との貿易拡大ではその損失を埋めるのは難しいとの指摘だ。

カナダの親中路線は、アジア資本の流れも変えつつある。地政学リスクに敏感な台湾系資本と華僑マネーがカナダを離れ、シンガポールや米国へ移動する「エクソダス」の兆しが感知される。台湾のオタワ駐在最高代表は最近、「中国は信頼できるパートナーではない」と公に批判した。

シンガポール金融管理局(MAS)によれば、2024年時点でシンガポール国内の単一家族オフィス(SFO)数は2000件へ急増した。中華圏マネーが地政学的な安全地帯を求めて移動しているという意味だ。台湾経済部の統計によれば、同じく2024年に台湾の対中投資件数は5.49%減少したが、対外投資は90.57%増加した。カナダが中国側に傾けば、安全保障不安を感じる台湾系資本の「カナダ離れ」は加速し得る。

金融市場も即座に反応した。協定発表当日の16日、カナダドルは米ドルに対して0.2%下落し、1ドル=1.3928 CADを記録して6週間ぶりの安値に沈んだ。スコシアバンクのチーフFXストラテジスト、ショーン・オズボーンは「米国が今回の協定を快く思わないだろうという市場の懸念が為替に織り込まれた」と分析した。

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韓国企業も今回の「メープル-人民元」協定の影響を受ける。国内の自動車メーカーと電池メーカーは、カナダ市場での価格競争激化と米国市場参入障壁の強化という「二重の圧力」に直面し得る。米国はカナダを牽制するため、USMCAの原産地規則を強化する可能性もある。米国はすでにIRA(インフレ抑制法)の海外懸念機関(FEOC)規定を通じて、中国産鉱物・部品の使用を禁じている。

来る7月のUSMCA再交渉で「原産地検証」を強化したり、中国産素材が少しでも混ざった電池について無関税恩恵を剥奪する「毒素条項」を追加したりすれば、カナダに電池工場を建設している韓国企業の戦略は全面的な修正が避けられない。

キム・ジュワン記者 kjwan@hankyung.com

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